相続の際、遺贈や生前贈与などの特別受益を考慮した上で財産を分ける「持ち戻し」という制度があります。
本記事では、特別受益の計算方法や、持ち戻しが免除されるケースについて紹介します。
特別受益の持ち戻しとは?
特別受益が認められた場合の遺産分割では、相続財産の金額に特別受益の金額を加算した上で、その合計金額から法定相続分(または遺言で定められた相続分)を分割していきます。この時の、相続財産に特別受益の金額を加算することを「持ち戻し」と呼びます。
特別の対象となる人
推定受益の対象となる人は以下の通りです。
推定相続人
贈与を受けた時に推定相続人(被相続者がその時点で亡くなっていた場合、相続人になる資格を有していた人)は、特別受益の対象になります。
贈与を受けた時点で推定相続人になることが決まっていた人
贈与を受けた時点では推定相続人ではなかったものの、結婚や養子縁組が決まっており、推定相続人になることが決まっていた人も対象です。
代襲者
代襲者が財産を相続する場合、被代襲者が受けていた贈与についても、特別受益の対象となります。
特別受益の対象財産
特別受益の対象財産は以下の通りです。
遺贈
遺言書によって遺贈を受けた場合、特別受益に当たります。
結婚や養子縁組のための贈与
相続人が結婚した際に受け取った持参金や支度金、養子縁組の際に受け取った財産などは特別受益に当たります。ただし結納金や結婚式の費用などは含まれないことが多いです。
生計の資本として受けた贈与
大学の学費や、新居の建築費用、起業時の業資金の支援などを受けていた場合も、特別受益に当たります。
特別受益と生命保険金
(1)原則として特別受益にもならない
生命保険金については、相続財産にならないことはすでに解説しましたが、原則として、特別受益にもならないというのが判例です。
(2)特段の事情があれば、例外として特別受益になる
しかしながら、生命保険金を受領した相続人だけが他の相続人に比べ有利になることについて、不公平になる面があることは否めません。相続人間の不公平が大きい場合は該当する可能性があります。
- 受取人の変更があり、変更の理由が不明確な場合
- 婚姻期間が短かったにも拘らず、相続財産の6割以上にも当たる生命保険を受け取っていた場合
特別受益について更に詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
特別受益の持ち戻しと計算方法
特別受益が認められた場合には、みなし相続財産(相続財産+相続財産)を、法定相続分(または遺言で定められた相続分)に則って分割していきます。
具体例
父親が亡くなり、その相続財産800万円を、その子供であるAとBの2人で半分ずつ相続することになりました。
しかしこの時、Aが200万円の特別受益を受けたことが認められたため、その金額を持ち戻し、1000万円のみなし財産を500万円ずつ分けることになります。
Aは、受け取れる500万円のうち200万円を特別受益としてすでに受け取っていますのでAの取り分500万円からは特別受益の200万円が差し引かれます。
よって実際には、相続財産800万円のうち、Aは300万円、Bは500万円を受け取ることになります。
特別受益の持ち戻し免除とは
特別受益の持ち戻しを免除されることがあります。免除されるのは、被相続人が、持ち戻しをしなくても良いという意思表示をしていた場合です。これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。
持ち戻し免除の意思表示は遺言書をはじめとする書面ではっきりと明示されていた時はもちろんですが、明示されていない時にも認められることがあります。
- 明示されていたケース→「明示の意思表示」
- 明示されていなかったケース→「黙字の意思表示」
黙字の意思表示が認められるのは?
- 生前贈与が、特定の相続人により多くの財産を遺す目的で行われた場合
- 生前贈与が、各相続人に同じぐらい行われている場合
- 生前贈与の見返りとして、被相続人が何らかの見返りを得ていた場合
- 同居していた配偶者に対して、二人で住んでいた不動産を遺贈した場合
その他、贈与の内容や価値、同期など、様々な事情を多角的に判断して、相続人が持ち戻し免除の意思を持っていたかどうかを判断します。
具体例
父親が亡くなり、その相続財産800万円を、その子供であるAとBの2人で相続することになり、この際Aが200万円の特別受益を受けていたことが認められました。
この時、持ち戻し免除の意思表示がない場合は、相続財産800万円に、引き戻しをされる特別受益200万円を足した1000万円をみなし財産とし、それを500万円ずつ分け合うので、Aの取り分はそこから特別受益の額を差し引いた300万円、Bの取り分は500万円となります。
しかし、持ち戻し免除の意思表示が確認できた場合は、特別受益の金額は引き戻しされず、相続財産800万円を分け合う形になるので、A、Bともに400万円ずつの取り分を受け取ることができます。
遺留分の規定に反することはできない
相続人は、被相続人との関係性に応じて、最低限相続できる財産が保証されています。この保証されている財産を「遺留分」といいます。持ち戻しの免除は、他の相続人の遺留分を侵害する形で行うことはできない決まりです。
遺留分の権利者と割合
遺留分は、被相続人との関係性や、他の相続人との兼ね合いによって決められています。
遺留分があるのは被相続人の配偶者、子供、父母です。被相続人の兄弟には遺留分がありません。
1.遺留分を認められる相続人が配偶者だけの場合
配偶者の遺留分は相続財産の1/2となります。
2.遺留分を認められる相続人が配偶者と子供の場合
配偶者は1/4、子供は1/4を子供の数で割った額がそれぞれの遺留分になります。
例:400万円の相続財産があり、配偶者と子供2人が相続人というケースならば、配偶者に100万円、子供2人はそれぞれ50万円ずつの遺留分が認められます。
3.相続人が配偶者と父母の場合
配偶者に2/6、父母に1/6の遺留分が認められます。
4.遺留分を認められる相続人が子供だけの場合
1/2を子供の数で割った額がそれぞれの遺留分になります。
5.遺留分を認められる相続人が父母だけの場合
1/3が父母の遺留分になります。
まとめ
- 遺贈や生前贈与などの特別受益があっても、持ち戻しにより相続人のあいだで平等に財産を分割することができます。
- ただし、免除の意思表示が確認できた場合は、被相続人の意思を尊重し、遺留分を侵害しない範囲で、引き戻しが免除されるともあります。
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