「安心な老後を過ごしたい」「自分が亡くなった後に、周りの人に迷惑をかけたくない」という気持ちは、だれもが持っているものです。特に独身の人や、子どもがいない人の場合は、その気持ちはより大きいことでしょう。
そんな人のために、「生前契約」があります。
ここではそのような生前契約を取り上げ、その種類や、それにまつわる質問への答えを紹介していきます。
生前契約、3つの種類
生前契約とは、自分自身で判断が難しくなったときにサポートしてもらったり、死んだ後の後始末をしてもらったりするために、元気で判断力がある間に結ぶ契約のことをいいます。そしてこの「生前契約」には、大きく分けて、3つの種類があります。
- 生前事務契約
- 任意後見契約
- 死後事務委任契約
それぞれの特徴について解説していきます。
※なお「生前契約」とは事務手続きや法律上の手続きだけではなく、お墓の手配なども含む言葉ですが、今回は前者のケースのみに限ってお話します。
生前事務契約
生前事務契約とは、体が不自由になったり寝たきりになったりしたときに、事務手続きなどを代行してもらうようにお願いする契約のことをいいます。
今は元気であっても、人は必ず老いていきますし、老いていけば本人がそれと気づかないうちに身体能力が落ちてしまう可能性もあります。またこのような状態で事務手続きを行おうとした場合、その都度委任状を作る必要があります。
しかし生前事務契約を結んでおけば、一括でこれらの手続きを行うことができます。また生前事務契約を結ぶことによって、自分自身の尊厳や財産を守ることができます。
生前事務契約においては、
- 自分の財産の管理
- 介護や医療などのやりとり
をお願いすることができます。
たとえば預貯金の引き出しや、家賃や水道費光熱費の支払い、税金の支払い、また介護サービスの利用と支払い、入退院のための手続きなどを依頼することが可能です。
なおこの生前事務契約は、口約束でも成り立ちます。「契約書がなければ成り立たない」というものではありません。ただし捏造を疑われないためにも、公正証書で作ることが推奨されます。
任意後見契約
任意後見契約とは、認知症などを患って判断力が衰えた場合に備えて結んでおく契約のことをいいます。
判断力がある間に自分の意思で後見人を選んでおき、自分で判断ができなくなった場合に、財産を管理してもらったり、介護や医療関係の手続きを行ってもらうことができるようにしておく制度のことを指します。
任意後見契約と生前事務契約は、その内容にほぼ変わりはありません。ただ生前事務契約は主に身体面で自由がきかなくなったときにサポートしてもらうためのものであり、対して任意後見契約は認知症などにより判断能力が低下してしまったときにサポートしてもらうための制度だといえます。
また、生前事務契約は前述した通り、「公正証書で作ることが望ましいが、口約束でも成り立つ」というものです。対して任意後見契約の場合は、公正証書によって結ぶものであるとされています。
このように、生前事務契約と任意後見契約は、「非常に似てはいるが、条件と結び方が異なる」というものです。安全を考えれば、生前事務契約と任意後見契約の両方を一緒に結ぶことが望ましいといえます。
この生前事務契約を結ぶ相手は、だれでもかまいません。家族はもちろん、血のつながりのない友人にも依頼できます。
任意後見契約を結ぶ相手も、友人知人、家族、だれでも問題ありません。
死後事務委任契約
最後に、「死後事務委任契約」についても紹介していきます。
生前事務契約と任意後見契約は、「老後のため」「生きているときのため」に行うものですが、死後事務委任契約は、その名前の通り、死んだ後のことを考えて結ぶものです。
死後事務委任契約では、たとえば、
- 死ぬときに入っていた病院や施設に対する支払いなど
- 借りていた家の家賃など
- 葬儀や埋葬に関する事務手続き
- 死亡届の提出や、年金の受給資格の抹消
- ペットの行先の手配
- 光熱費の支払い
- 個人情報(SNSやスマホなど)の抹消手続き
をお願いすることができます。
ちなみに死後事務委任契約の内容のなかには「財産の処分も含む」とする解釈もありますが、これに関しては遺言書で「〇〇に財産を相続する」とした場合は「どちらを優先するべきか」でもめる可能性があるため、慎重に定める必要があります。
死後事務委任契約も、家族や友人、知人と結ぶことができます。公正証書は、あれば望ましいのですが、なくても成立します。
いつ効果を発揮するか | どんなものか | 公正証書の作成の有無 | |
生前事務契約 | 主に身体面などで不自由が出たとき | 財産管理や、介護医療のやりとりをお願いできる | 不要、あった方が望ましい |
任意後見契約 | 主に認知・判断力に問題が出たとき | 財産管理や、介護医療のやりとりをお願いできる | 必要 |
死後事務委任契約 | 死んだ後 | 残った支払いを済ませたり、行政上の手続きができたり、個人情報の抹消やお墓の手配などができたりする | 不要、あった方が望ましい |
だれに頼む? いつ頼む? エンディングノートとの関わり
最後に、生前契約に対するよくあるQ&Aについて解説していきます。
だれに頼む?
だれにでも頼めるが、士業に頼むのが安全
上でも述べた通り、生前事務契約も任意後見契約も死後事務委任契約も、知人友人家族、いずれに対しても頼むことができます。
しかし専門家ではない人に頼むと知識が及ばないことがあったり、人間関係であつれきが出た場合に対応しにくくなったりするので、弁護士などの士業に頼んだ方が安心です。
いつ頼む?
できるだけ早いうちに
いずれの契約も、できるだけ早くに行うべきです。
なお任意後見人契約は「本人が認知症を患っていたとしても、意思決定能力があると判断されれば結ぶことができる」とされていますが、それでもしっかりとした判断力・認知能力がある場合に比べれば結ぶことが難しくなります。
そのためいずれの生前契約も、本人がまだ健康面・判断力・認知能力に問題がない状況にあるときに結ぶべきです。
なお、3つ(+遺言書)を一緒に契約・作成することもできます。こうしておくと、万が一のときにもよりスムーズに対応できるようになるでしょう。
エンディングノートとの関わりは?
エンディングノートに法的拘束力はないが、併用がすすめられている
生前契約はいずれも法的な力を持つものであるのに対して、エンディングノートは法的な拘束力は持ちません。しかしエンディングノートと生前契約を併用することで、より自分自身の意思を家族などに伝えやすくすることができます。たとえば、エンディングノートに「毎月3000円くらいの花束を部屋に飾ってほしい」などのように、生活費をどのように使うかを指定しておけば、それを守ってもらえることが多いと思われます。
「ピンピンコロリ」が一番良いとされていますが、そのように旅立てる人はそう多くはありません。知らず知らずのうちに人は老いていくものですし、また思いがけないときに思いがけないけがをすることもあります。そのようなときの心強い味方となってくれる生前契約は、「元気なとき」に早めに結んでこそ、最大限の効果を発揮するものだといえるでしょう。
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