被相続人名義の車がある場合、その車も相続財産の一つです。車は使用するか否かに関わらず、まずは相続人を決めて車の名義変更手続きを行う必要があります。
今回は車を相続した場合の名義変更手続きと、その注意点を詳しく解説します。なお車には四輪車、二輪車、軽車両など様々な種類がありますが、この記事では主に四輪車について、「車」と表記して説明します。
車とは?
車は民法上の動産に該当し、不動産のような「登記」は不要です。しかし車は道路運送車両法の適用を受け、使用者・所有者の「登録」を行わなければなりません。譲渡や廃車を行う予定であってもまずは名義変更手続きが必要です。名義変更手続きは、管轄の運輸支局又は軽自動車検査協会において行うことができます。
相続による名義変更は、
- 単独人が相続する場合
- 複数人が共同で相続する場合
単独人が相続する場合とは
単独人が相続する場合とは、例えば
- 相続人同士で遺産分割協議を行い、結果1人が相続する場合
- 元々相続人が1人しかいない場合
- 遺言書によって1人が相続する場合
複数人が共同で相続する場合とは
遺産分割の方法の一つとして、共有分割という方法があります。共有分割とは、各相続人の持ち分を法定相続分等に定め、共有名義とする方法です。
しかし共同での相続手続きは、現実的には稀なケースといえます。理由は名義を共有にした場合、後の売却や廃車等の手続きを名義人全員でしなければならないといった不都合が生じるためです。
車の相続に必要な書類と手続き
手続きについて
車の名義変更をするためのおおまかな手続きは、以下のとおりです。
- 必要書類を収集する
- 運輸支局(軽四自動車であれば軽自動車検査協会)に必要書類を提出する
- 手数料を納付する
必要書類を収集する
相続により車の名義変更を行う場合に必要となる書類とは、
- 被相続人が死亡したことがわかる書類
- 被相続人と相続人全員の関係がわかる書類
- 新しく車の名義人となる人がわかる書類
具体的には、後述の「主な必要書類」をご覧下さい。
運輸支局(軽四自動車であれば軽自動車検査協会)に必要書類を提出する
書類の提出先は、普通自動車以上であれば運輸支局、軽四自動車であれば軽自動車検査協会になります。なお車を相続する本人が手続きをしない場合には、実印で作成した委任状が必要です
手数料を納付する
車の名義変更には手数料が必要です。名義を被相続人から移転登録する手数料として500円、またナンバープレートの変更がある場合は、1,500円前後の手数料が別途発生します。
なお、自動車税申告書も他の書類と合わせて提出することになりますが、自動車取得税は相続のため免除されます。
主な必要書類
ここでは単独人で相続する場合と、共同で相続する場合を中心に主な必要書類をまとめています。
単独人で相続する場合
単独で相続する場合の必要書類は、以下のとおりです。
<事前に用意するもの>
- 被相続人の出生から死亡までの期間の戸籍謄本・除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 車を相続する人の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(車の査定額が100万円以下の場合は、遺産分割協議成立申立書+査定書)
- 自動車検査証
<運輸支局の窓口で入手できるもの>
- 申請書(移転登録用OCRシート)
- 手数料納付書(手数料は500円)
- 自動車税申告書
遺産分割協議成立申立書とは、遺産分割協議書の簡易書類です。
車の査定額が100万円以下の場合、遺産分割協議書に代えて提出することができます。遺産分割協議成立申立書は、相続人全員の実印での捺印を省略し、相続人のみの実印で作成することが可能です。さらに戸籍謄本も、相続した人の分だけに省略できます。ただし100万円以下であることを証明するために、別途査定書の提出が必要です。
査定書は自動車査定協会などで発行してもらえます。なお相続人が元々1人の場合や遺言書による相続の場合は、遺産分割協議書は不要です。また遺言書で相続する場合には、遺言書の提出が必要になります。提出する遺言書は、公正証書遺言を除いて検認を済ませることが必要です。
共同で相続する場合(法定相続分で相続)
共同で相続する場合の必要書類は、以下のとおりです。
<事前に用意するもの>
- 被相続人の出生から死亡までの期間の戸籍謄本・除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 車を相続する人全員の印鑑証明書
- 自動車検査証
<運輸支局の窓口で入手できるもの>
- 申請書(移転登録用OCRシート)
- 手数料納付書(手数料は500円)
- 自動車税申告書
法定相続であるため、遺産分割協議書を提出する必要はありません。ただし車を相続する人全員の印鑑証明書のほか、窓口に来ていない相続人全員分の委任状などが必要となります。
第三者に譲渡する場合
第三者に譲渡する場合も、まずは被相続人から相続人に名義変更を行い、その後に第三者に譲渡を行うという二段階の名義変更を行います。ただしダブル移転といって最初の名義変更の際、相続人全員か代表相続人の譲渡証明書等を用意すれば1回の手続きで済ませることが可能です。
軽自動車の手続きについて
軽自動車の場合は相続人の住民票と認印、車検証を軽自動車検査協会に提出し、協会内の申請書(OCRシート)と自動車税申告書に記入すれば手続きは完了です。戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑証明書は不要となります。
必要書類は提出先に確認する
主な必要書類をご紹介しましたが、車両の名義変更を行う場合は、書類を収集する前に必ず管轄の陸運支局などに確認しましょう。
理由は提出先機関によって若干運用が異なる部分があるためです。
例えば、遺産分割協議書の住所氏名と戸籍謄本の住所氏名が異なる場合などは、下記の書類以外に車を相続した人(新所有者)の住民票などを求められるケースもあります。
このあたりは提出先機関の判断となる部分のようなので、提出に行く前に確認が必要です。
車の名義人が第三者の場合の手続き
車にローンが残っている場合、車の名義人が自動車販売店や自動車ローンの信販会社になっていることがあります。この場合はまず名義人に連絡が必要です。
車を使い続ける場合
車を使い続ける場合は、相続が発生した旨を名義人に説明し、名義人が指定する必要書類を作成すれば手続きは完了です。この時、被相続人が死亡したことがわかる住民票の除票や除籍謄本、印鑑証明等などの提出が求められることが一般的になります。
ただし残債がある場合、契約内容によっては一括請求される可能性があるので注意が必要です。
車を返却したい場合
車を名義人に返却する場合は、名義人が車を換価処分し残債と相殺してくれます。ただし相殺できない場合は、不足分を請求されるため注意が必要です。
車のローンは支払わなければならない?
被相続人の債務も相続財産の対象なので、ローンがあれば相続人が支払う義務を負います。しかし、負債の方が大きくなりそうな時は、事前に相続放棄か限定承認の手続きをする方法があります。相続放棄とは全ての相続権を放棄することで、限定承認とはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することです。
いずれも、相続の開始から3ヶ月以内に家庭裁判所にも申し出る必要がありますが、限定承認は相続人全員での申し出が要件なので早めに準備をしなければなりません。この手続を取ることにより、借金だけが残るリスクを避けることができます。
車の相続における注意点
上記以外に、車の相続での注意点をご紹介します。
委任状は実印で
車の名義人以外が変更手続きを行う場合や、複数人の相続人のうち1人が代表して変更手続きを行う場合、窓口に来ていない相続人が作成した委任状が別途必要となります。委任状の印鑑は、各委任者(相続人)の実印による作成が必要です。
未成年者の取扱い
未成年者であっても車の所有者となることは可能です。ただし、印鑑登録は16歳以上が対象となるため、15歳未満の場合は印鑑証明書の変わりに住民票が必要になります。
また、未成年者が委任状を作成する場合は、親権者が実印を押す必要があります。
ナンバープレートを変更する場合
車を相続することで、車の使用の本拠地を管轄する運輸支局が変わった場合、ナンバープレートを変更しなければなりません。この場合は、車両を運輸支局に持ち込む必要があります。
車庫証明書
車は使用の本拠地を管轄する警察署に申請し、車庫証明書を発行してもらう必要があります。ただし相続の場合は、被相続人と車の相続人の住所が違う場合に限り車庫証明書の発行手続きが必要です。軽四自動車については、車庫証明が不要な地域もあるため確認しましょう。
自動車保険の引き継ぎ
自賠責保険は車に対しての保険ですので、相続時に問題はありません。忘れがちなのが、任意保険の引き継ぎです。被相続人の車を引き続き利用する場合は、保険会社への連絡が必要となります。もし行わなければ、いざ事故が発生した時に保障の対象者にならない可能性があるためです。被相続人の年齢や加入要件などによっては、保険料の追加や補償対象者に変更が生じる場合がありますので、変更後の保障対象者をよく確認しましょう。
まとめ
車は譲渡や売却、廃棄を予定する場合であっても、まずは名義変更が必要です。名義変更は単独人が相続する場合と複数人が共有で相続する場合、また対象車両の査定額などで必要書類が異なります。
また、車両にローンが残っている場合は早めに残債を把握し、他の資産と比べても負債の方が大きくなりそうな場合は相続放棄等の手続きをとることも検討しましょう。
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